稚武彦から発せられた光を浴び、悶え苦しむ嵐華と、とばっちりの佐和彦。

 佐和彦はついに、白目をむいて泡を吹き、昏倒してしまった。そして――――、

「きいいぃぃぃああぁぁぁぁあぁ!!」

 一際甲高い悲鳴を上げて、嵐華――否、凪の身体から闇よりも深い影が飛び出した!

「出たか・・・・・・?」

 稚武彦は身構えながら、凪とその影を見守った。そして、太長い影が完全に抜け出ると、凪の身体は前のめりに倒れ込んでいく。

「凪!」

 床に倒れ落ちる寸前に、稚武彦は凪を抱きとめた。急いで口元に耳を近づけると、微かだが吐息が聞こえた。蒼白だった顔にも、徐々に赤みが戻ってくる。

「凪・・・・・・良かった・・・」

 稚武彦が、ほっと胸をなでおろしたその時、頭上から、しゅーしゅーと空気が漏れるような音が聞こえてきた。

 はっとした稚武彦は、おそるおそる頭上を見上げた。そこには、鎌首をもたげた、闇色のウロコを持つ、巨大な蛇が、浮かんでいた。

「出たぁぁぁぁぁあぁあ!!」

 思わず絶叫する稚武彦。実は彼は、足のない、ぬるっとしたイキモノが大の苦手だったのだ・・・・・・。

 稚武彦の脳裏で、数年前の嵐華との闘いの記憶が走馬灯のように駆け巡る。あの時も、追い詰められた嵐華は正体を現し、稚武彦に迫ってきたのだが、正直、恐怖のあまりに意識が飛び、どのように闘って嵐華を打ち倒したのか、覚えていない稚武彦であった。

 凪が腕の中にいなければ、今このときも、意識を吹き飛ばしていたかもしれない――――。

 しゅーしゅーと、大蛇の口から間断なく音がもれ出る。大きく見開かれた瞳は、闇の中に燃える炎のように紅い――――。

「フ・・・フフフ・・・・・・タスケテ・・・ネエサン・・・」

 恐怖が大きすぎるのか、不思議な笑みを浮かべながら、稚武彦は実の姉、卑弥呼に救いを求めた。

 その卑弥呼は、自分が閉じてしまった扉の向こう側にいる――――。